2007-03-07

アナタも知らないアナタのココロ

本日のManagerial Accountingの授業のゲストスピーカーによる「コンジョイント分析(Conjoint analysis)」の話が非常に面白かったので、そのご紹介。

コンジョイント分析とはマーケティングなどで消費者嗜好分析に使われる分析手法。例えば、「ホテルにどんな機能・サービスをつければ顧客満足度が上がるかしら?」ということを調べる場合、よくあるパターンとしては、「禁煙ルーム」「アメニティの充実」「ホテル内ジム」「朝食サービス券」などの項目を挙げて

「次のそれぞれの項目について「強く希望する」から「全く希望しない」まで5段階で評価してください」

とか

「次のそれぞれを、希望する順序に並べてください」

といった風にアンケート調査を実施し、「顧客に一番望まれているのは禁煙ルームです!」なんて結果を出したりする。

ただ、最初の方法だと「どれも希望する!」という回答は十分予測されるところで、結局どれがどの程度重要なの?ということがいまいち分からなかったり。二つ目の方法でも、重要度がの順序が分かったとしても、じゃあ「AのためならBを犠牲にできる」といった、「どれが必要」で「どれが必要でない」ということがなかなか分かりにくかったりする。

さらに、例えば上の項目に「アダルトチャンネルの充実」なんて、ちょっと人目をはばかる選択肢が入っていた場合(ちなみに、これ実際に授業で説明された事例です)。さて、どのくらいの人が正直に自分の嗜好を答えるでしょう?いくら匿名無記名アンケートとはいえ、本心では「アダルトチャネル超重要!、それが無いホテルには泊まりたくない!」と思っていても、堂々とそれを回答するにはどうしてもためらいがあるのでは。

さて、コンジョイント分析は、そうした「それぞれの選択肢の本当の重要性」を明らかにするために、いろいろな選択肢を組み合わせて「セット」にして、そのセット同士で比較したり、順位をつけたりする。

例えば、上のホテルの例で言うと

ホテル1:禁煙ルーム、朝食券つき、アダルトチャネルなし、ホテル内ジムなし、アメニティ充実

ホテル2:禁煙ルーム、アダルトチャネルあり、朝食券なし、ホテル内ジムあり、アメニティ充実

という2種類のホテルがあった場合、あなたはどちらを選びますか?というのを尋ねる。で、これを何セットもつくり、2択を繰り返してもらう。あるいは、上のようなセットを複数作って「1~10のホテルの中から、泊まりたい順に並べてください」という順位付けをおこなってもらう。

そうすることで、その人が「何に重点を置いているか」が相対的に分かる。単に「これとこれは重要」ってだけじゃなくて、「ホテル内ジムのためなら、アメニティの充実は犠牲に出来る人」とか「何はともあれ禁煙ルーム」とか。あと、上で挙げた選択肢に対する心理的なバイアスも、単純選択に比べてかなり軽減できる。「いやいや、ホテル1じゃなくてホテル2を選ぶのは、オイラはホテル内ジムを超重視してるからさっ。別にアダルトチャネルのチャネルが理由じゃないよ~」なんてね。

実際に、授業で紹介された過去のデータによると、上のような嗜好調査を単純な順位付けでやった場合は「ホテル内ジム」が1位でだったけど、コンジョイント分析でやると「アダルトチャネルの充実」が圧倒的1位だったらしい。そしてその嗜好調査を裏付けるようなデータとして「アメリカのホテルで、男性一人で宿泊した場合の、アダルトチャネルをつける割合は70%」という統計があるそうな。マジですか。それはそれで、ホテルの使い方を間違っている気が。

このちょっと手間のかかる調査から、それぞれの顧客の、各項目に対するUtility(効用?と訳すのだろうか?それぞれの人に対して、それぞれの項目がどの程度「有効か」を示す値)を出し、例えばAさんにとっては「禁煙」のUtilityは0.8、ジムは0.3、アダルトチャネルは-0.4なんて数字が出る。そのデータが数百人、数千人分用意できれば、例えば「禁煙ルームの割合を○室にして、アメニティにこれぐらい投資して、価格を幾らにした場合、どのくらいの人がホテルを利用し、投資に対する利益はどの程度か」といった感度分析ができ、どこにどのくらい投資すべきか、という判断ができる、というもの。これがマーケティング的なコンジョイント分析の使い方、だそうです。

授業で紹介されたコンジョイント分析の面白い事例としては、他にも、ビジネススクール卒業を控えた学生を対象に、「あなたが就職先を選ぶ際に重視するものは?」と尋ねた質問があった。10個ぐらいの項目のうち、通常の調査だと「co-worker」が1位で「salary」は7位ぐらい。でもコンジョイント分析だと、「salary」が1位だったり。

いや、これホント面白い。授業ではマーケティングへの応用が紹介されていたけど、心理学系の調査でもどんどん使えそう。ある種「欲」に絡むことを尋ねられると、匿名無記名のアンケートとはいえ、どうしても「自分をよく見せたい」という心理が働く。その「歪み」を取り去る手段として、完璧とまではいかないまでも、かなり有効なのでは?

私は今まで、こういった個人の嗜好調査系の調査結果がいまいち信じられなくて、ちょっと奇麗事っぽいアンケート結果を見るたびに「んなわけないって!みんな本音で答えよーよ!」などと思う、かなり歪んだ性格の持ち主なわけですが。こういう「あの手この手で、人の深層心理を探り出す」手法を見ると、お、統計調査もなかなかやるね!と思ってしまいます。

コンジョイント分析はアメリカではそれなりに普及している手法みたいだけど、日本ではあまり聞いたことがない、気がする。私も始めて聞いたし、某外資系戦略コンサルに勤めていた同級生も「これは初めて聞いたわ」といっていた。実際にやるとなったらかかる手間と費用は通常のアンケート調査以上だと思うけど、マスターしておくと後々役に立ちそうな技な感じです。

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