2006-07-28

Asian Night

片付けても片付けても次から次へと沸いて出てくる細々とした手続き。郵送する荷物は、箱詰めして「これでOK」と思うのも束の間、追加で入れたい荷物がどこからともなく現れて、あわてて箱を開いて荷造りしなおしたり。そうした作業の合間にちょっとしたアルバイトを引き受けたりしたものだから、結局、徹夜で迎えた出発当日の朝、関西国際空港に着いたときには、すっかり疲れきっていた。

なにせ、持って行く荷物の量だって半端じゃない。23キロのダンボールと20キロのスーツケースを機内に預け、機内持ち込み荷物として10キロの小さなスーツケースとぱんぱんに詰まったショルダーバック。明らかに機内持ち込み重量制限をオーバーしたそれらの荷物を「これ、手荷物だから!」というフリをしてなんとか持ち込み、窓際の席についてようやくほっと一息。そうか、いよいよ出発だ、と思ってはみるものの、とにかく疲れきっているものだから、思考がそこから先に進まない。感慨に耽る気持ちの余裕もない。とりあえず出国した。遣り残した作業はいろいろあるかもしれないけれど、今更どうしようもない。出発だ。とりあえず、なんとか出発することができたんだ・・・最後の力を振り絞ってそんなことを考えつつ、機体が離陸するや否やあっという間に眠りに落ちる。

(そうそう、以前、「北米便以外では手荷物制限は20キロ」と書いたことがあったけど、あれ、間違いだった。北京経由でも北米便だと、それよりたくさん持ち込める。制限重量は航空会社によって違うみたいだけど、中国国際航空の場合は23キロ×2個までOKです)



どん、という鈍い振動で目が覚めた。あ、着陸したんだ、と気がつく。離陸から着陸まで、全く記憶がない。途中なんとなく、機内食の「匂い」がした記憶はあるけれど、それっきり。なんと、4時間丸々眠っていたのだ。意外と眠りが深かったのか、随分と体がすっきりしている。完全にとまではいかないものの、出発前の眠気と疲れがかなり綺麗に拭い去られている。あ、結構回復したかも、と思いながら、ダンボールとスーツケースを空港に預け、手荷物を持って北京市内行きのバス乗り場に向かった。

空港の外は、予想していたほどは暑くない。荷物を引っ張って歩くとじっとりと汗が滲むが、じっと立っている分にはそれほど苦痛でもない。湿度もそれほど高くない。曇り空のせいか視界も薄ぼんやりとしている。ターミナルに次々と入ってくるバスやタクシー巻き上げる砂埃のせいもあって、全体的になんとなく白っぽい、煙ったような風景。さかんに鳴らされるクラクションに、あちこちで聞こえる怒鳴り声。決してwelcome!という雰囲気ではない、目に優しい綺麗な風景ではないのだけれど、「あ、アジアに来たんだな」という気がして、心が沸き立つ。思えば、思えば、日本以外のアジアの都市を訪れるのは4年ぶりだ。





空港で手配してもらった宿は、北京市内中心部の「王府井」というところにあった。ここは、大通りの一角が終日歩行者天国になっており、その両側に大きな百貨店が連なる。日本で言うところの銀座の歩行者天国みたいなものだろうか。道路脇には飲み物やら食べ物やらを売る露店があり、それぞれの店の側にテーブルと椅子、そしてパラソルが設置されていて、そこでくつろぐことができる仕組み。

宿に荷物を置いて一休みすると、そのまま通りに出てぶらぶらと歩く。金曜日の夕方ということもあってか、既にかなりの賑わい。両脇のショッピングセンターでは、尼崎並みの価格でTシャツが安売りされていたりして、かなり心を惹かれたものの、運搬の手間を考えてあきらめる。とにかく、これ以上、なるべく荷物を増やしたくないのだ。

大通りをふらっと歩いた後、その脇の細い路地に入る。そこには、メインストリートとはまた違った風景があった。細い路地の両脇にびっしりと連なる屋台。狭い道を押し合うように歩く人々目掛けて、屋台から怒鳴り声のような呼び込みがかかる。

肉や魚の焼ける香ばしい匂い。石畳の歩道が、油やら得体の知れない液体でべっとりと濡れている。ここでは、肉や魚を長い竹串に刺して焼いた「串焼」が定番の料理らしい。店先には、焼かれる前の串がびっしりと並べられている。

言葉が通じない(英語は通じないし、私は中国語は全く分からない)ので、多分鶏と思われる串を指差して、「1本」と指を立てる。ちなみに1本3元~5元(1元=約15円)。すると店員が、中国語で何やら叫びながら、刷毛で何かを塗る手真似をして「どうする?」という顔をした。焼き鳥のたれみたいなもんだろうか、と思ったので「OK、OK」といいながら頷く。じっと見ているとなんと「七味唐辛子」だ。それを、長い串に刷毛でべっとりと塗っていく。やばっ、と思ったものの、今更止められない。勢いよく手渡されたそれを、仕方ないから笑顔で「謝謝!」と受け取り、覚悟を決めてかぶりつく。肉の味が分からないほどの激辛、を予想していたけど、意外に程よい辛さ。人ごみを避けながら、立ったままがしがしと食べる。あー、アジアにいるんだなー、という実感がふつふつと沸いてくる。結構な分量に思えたけど、一切れ一切れが小さいのか、あっという間になくなってしまう。七味唐辛子のせいもあって、軽くのどが渇く。よし、ビールだ!

数本の串焼き、謎のたこ焼き、そして青島ビールの瓶を持って、歩道脇のテーブルに席を確保した。栓を開けてもらったビールを、瓶からそのまま流し込む。いつも思うのだけど、アジアのビール、特に現地で飲むそれは本当においしい。蒸し暑い気候も、その美味しさに拍車をかけているのかもしれない。熱気の中で、軽い口当たりのビールが、まるで水のように喉を通る。辛みの効いた串焼きと青島ビールを交互に頬張りながら、あー、アジアに来たんだなー、と今度は口に出してつぶやいてみる。周辺で賑わう人々の言葉は全く理解できなくて、でもそれがとても心地よい。周りの人の話し声も、屋台の肉が焼ける音も、遠くから聞こえる音楽も、全てがごちゃ混ぜになって耳に届く。瓶が空くにつれて、視界がゆるゆると歪みだし、段々と思考能力が低下する。視覚と聴覚と触覚と、そして味覚と。それぞれの感覚の境目が段々と分からなくなりながら、なんだかとても楽しい。ここしばらくずっと張り詰めていた感覚が、ゆるゆるとほどけていく。

あー、アジアに来たんだなー。

段々と何も考えられなくなる頭の中で、最後に残っていたのはそのフレーズで、体全体が弛緩するような心地よさを感じながら、なんだかとても幸せな気分だった。

2 comments:

Anonymous said...

懐かしいなー、北京。
とにかく東京すら比にならない人の海って感じで圧倒された記憶があります。その時は北京に来たら北京ダックってことでお金を出して食べてしまいましたが、こういう屋台で食べた方が旅行を味わえて良いんですよね。

torizou said...

アジアの屋台っていいですよねー。なんか雰囲気だけで味が三倍増しになる気がします。

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