2007-04-02

イニシエーション・ラブ

3月最後の1週間、春休みはLAで過ごしておりました。友人宅に泊まらせてもらって、3日でテーマパーク4つ、美術館2つにパサデナのハンティントン・ライブラリーなどを回り、昼夜と友人お勧めのLAのお店で食べ歩く、という幸せな日々。遊んでくれたI氏、S氏、ありがとうございます。

で、テーマパークや美術館が表の目的地としたら、裏の目的地はLAにあるブックオフ。そう、なんとLAにはあの日本のブックオフがあるのです。アメリカではNYとLAにだけあるらしい。う、うらやましいね・・・

事前の打ち合わせ段階から、行きたい場所を聞かれて「ブックオフ!」と答えた私は友人たちに呆れられていたようですが、期待にたがわず、大量の文庫本&マンガをゲット。総額80ドルあまり。日本に居たときですら、ブックオフでこんなに使ったことはありません。マンガはかさばるからやめておこうと思ってたのに、「のだめ」を大人買いしてしまいましたよ・・・。あ、80ドルのうち半分ぐらいはのだめです。

本は日本から空輸しているものもあるらしく、値段設定は日本より若干高め。でも、「1ドルコーナー」とか「2冊で3ドルコーナー」といったお買い得品も沢山あるため、かなりの冊数を買い込むことに成功。

で、タイトルのイニシエーション・ラブ。以前からネットの書評などで噂になっているのを聞き、一度読んでみたい、と思っていたところ、運良くブックオフで発見し、早速購入。乾くるみ、読んだことないけどメフィスト賞作家だったのね。ってことはかなり癖のあるミステリ作家なんだろうなあ、などと思いつつ、早速読み始め・・・(以下、一応ネタバレはしてませんが、余計な前知識を要れずに読みたい人は、スルーしていただいた方がよいかもです)

大学四年の僕(たっくん)が彼女(マユ)に出会ったのは代打出場の合コンの席。やがてふたりはつき合うようになり、夏休み、クリスマス、学生時代最後の年をともに過ごした。マユのために東京の大企業を蹴って地元静岡の会社に就職したたっくん。ところがいきなり東京勤務を命じられてしまう。週末だけの長距離恋愛になってしまい、いつしかふたりに隙間が生じていって…。

目次から仕掛けられた大胆な罠、全編にわたる絶妙な伏線、そして最後に明かされる真相…。80’sのほろ苦くてくすぐったい恋愛ドラマはそこですべてがくつがえり、2度目にはまったく違った物語が見えてくる…。


との紹介文通りの、ベタな恋愛模様から始まって。合コンで知り合った二人が付き合い始め、デート、初体験、クリスマスと時を過ごす。やがて東京と静岡の遠距離恋愛になり、二人の間には少しずつ溝ができはじめ・・・・と、面白くないことはないけど、かなりベタ。いまどきベタな恋愛小説でもこの展開はないでしょう、というぐらいベタ。えーと、一体どこでひっくり返るんだろう。つーか、もう残りページが少ないのだけど、これ本当にミステリになるの・・・と思ってたら。

ちゃんと最後にくつがえりました。やられました。しかも、衝撃が2段階で来ました。最初読み終わったときは「え、そういうことだったのね。なんか違和感あると思ってたけど、そうかー」と驚きながら納得して。あれ、でもまてよ、それだと微妙につじつまが合わないところが・・・・・・と考えることしばらく。

ま、まさかそういうこと?!

即、ページを戻って再読。すると、一度目の時には「ごくありふれた恋愛模様」に見えた様々なシーンに張られている伏線が、出てくるわ出てくるわ。ページをあちこちに繰りながら、ついには付箋まで出動させて確認作業。ラストを読んだあとで読み返すと、これほど全体の印象が変わってしまう話もないんじゃないでしょうか。

驚き度でいうと、筒井康隆の「ロートレック荘殺人事件」が近い感じかなあ。ただ、一読したあとに再読すると物語が全く違って見える、という点では共通していますが、かなりテクニカルな印象の、別の言い方をすると「ミステリを成立させるためにトリックを駆使する」印象を強く受けるロートレック荘に対して、イニシエーション・ラブの方は、「トリックが見破られた後に見えてくるもう一つの物語」が、後味が悪いというか、えぐいというか、背筋が寒くなるというか、なんというかいろんな意味で「凄い」。

ちなみに、タイトルの「イニシエーション・ラブ」とは、物語の中で登場人物が語る言葉で、本文から抜粋すると

子供から大人になるための儀式。初めて恋愛を経験したときは誰でも、この愛は絶対だって思い込む。でも人間にはーこの世の中には絶対なんてことはないんだよっていつかわかるときがくる。それがわかるようになって初めて大人になるっていうのかな。それをわからせてくれる恋愛のことを彼はイニシエーションって言葉で表現していたの


とのことですが、この小説のトリックを見破ることで見えるもう一つの物語を受け止めること、理解できるようになることが、一つのイニシエーションでもあるんじゃないかな、と思ったり。

とまあ、未読の人には「なんのことやら」という感じで書き散らしてしまいましたが、どうやら近々文庫化するみたいですし、興味をもたれた方は是非読んでみてください。で、私の語り相手をしてください・・・

あと、ネットでいろいろネタバレサイトをみて知りましたが、歌野晶午の「葉桜の季節に君を想うということ」もどうやら似た系統らしく。日本に帰ったときに是非買ってみようと思います。

1 comment:

Anonymous said...

ちなみにあなた、うちのクローゼットにピンクのジャケット忘れたでしょ?

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