2月上旬のある週末、互いに作ったパスタとオニオンスープグラタンで夕食を食べていると、ルームメイトのHeavenが突然口を開いた。「もう卒業まで4ヶ月もないのよ!」「そ、そうだね」「せっかくの週末にのんびり家でご飯食べてる場合じゃないと思うの!これからは、出来るかぎり週末を有効活用して、 今までに行っていないところに行かなきゃ!」唐突な流れではあったものの、丁度よい機会だと思い以前から狙っていた場所を提案。「じゃ、White Sandsでも行く?」「White Sands?」「ニューメキシコの国立公園、石膏の粉末でできた一面の白い砂漠が見れるそうです」「行く!」
という経緯で行ってきましたニューメキシコ。週末を利用して2泊3日で2つの国立公園を回ってきました。一つは、Carlsbad National Park。ここは世界最大級の規模を持つ地下洞窟群。もう一つは上にあるWhite Sands National Park。同行者はルームメイトの韓国人2人にインド人、私の4人。
Oaklandの空港からPhoenix経由でおよそ5時間のフライト。到着したEl Pasoの街でレンタカーを借りて車を走らせること約1時間。テキサス州とニューメキシコ州の州境で検問に遭遇する。車を止める我々。車内を覗き込んだアメリカ人の係官は、3人のアジア人と1人のインド人を見つけて質問を開始。「どこから来たの?」「カリフォルニアから」「US citizenか?」「いや違う、F1 Visa(留学生Visa)で滞在している」「身分証明はある?」「運転免許証が」「パスポートとVisaは?」「国内旅行だから持ってきてない」お決まりの質問を一通りこなせば通過できるだろうと思っていたのが、このあたりから雲行きが怪しくなってくる。「持ってきてないのか?Visa保有者は旅行するときはパスポートを携帯しておかなきゃいけないんだぞ」「え、そんなこと知らなかった。だって国内旅行だし」「国内でも。カリフォルニアを離れる時は。特にここみたいな国境近くに来るときは」そう、El Pasoはメキシコ国境からわずか7マイル。たかが州境の検問で妙に警戒が厳重な理由はそこにあったのか。
「とりあえず、確認するから運転免許証を貸して」といわれ、係官は我々の免許証を集めて検問所の小屋に帰っていく。そのまま放置されること30分。「どうなるんだろ?」「でも別に不法滞在とかじゃないし、運転免許で身分が確認できたらOKじゃないの?」と比較的気楽な私と韓国人Helenに対し、Visaや入国問題で散々トラブルにあってきたというインド人Ashishと本人はトラブルに遭遇してないものの、様々なトラブルの話を見聞きしてきたという韓国人Heavenが反論。「いやでも、下手するとこのままかなり長時間留め置かれる可能性もあるよ」「なんで?身分確認できたらいいんじゃないの?」「Visaは身分を保証するものだけど、その判断は係官にまかされちゃうからね。例えば書類がそろっていても彼らが“こいつら怪しい”と思えば、その場で拘留される可能性もあるよ」「法的にはパスポート持ち歩かなくてもいいはずだけど、そういえば学校のInternational Studentのオフィスからも、“持ち歩くことを推奨する”って言われてたね・・・・こういうトラブルのためだと思う」なんとなく、車内に重い空気が漂う。そのとき、再び係官が車の方に近寄ってきて言った「ちょっと身分の確認するから、あっちの小屋の方まできてくれないかな」。指差した先には、検問所の詰所とおぼしき小屋が。
結論から言うと、チェックポイントで足止めされてから再び出発するまでに、およそ1時間半の時間が必要だった。留学生はSEVIS(Student and Exchange Visitor Information System)というシステムに名前と学校が登録されていて、そこでVisaが有効であるかどうかを確認できる。チェックポイントの係官はそこから我々の 身分を調べようとしたのだけど、やはりアメリカ、予想通りの「落第級仕事人」ぶりが発揮。「君(私)のビザは確認できたんだけど、他の人の分はF1 Visaが確認できないんだよね。Visaの状態がH1とBになっている。学校が更新してないんじゃない?」学校に来る前にアメリカで働いていた Ashishは以前にWorking VisaであるH1を、アメリカ入国にビザの必要な韓国人2人は観光用のBビザを以前に取得していた。どうも昔のVisaの状態が残ったままで、F1のス テータスが確認できないらしい。そんな莫迦な、こっちは入学するときにSEVIS登録料で100ドル近く払ったんだよ。じゃあ指紋で調べようか、ということになり、何故かインド人Ashishだけが(何故彼だけだったのか、 この辺の理由もよく分からないのだが)指紋をとられることに。ここで取った指紋と、入国時にイミグレーションで採取したものをマッチングさせて、本人確認をするらしい。「指紋は100%だから。ほら、名前とかだと同姓同名があったりするけど、指紋なら100%本人を確認できるからね」のんびりとした口調でそう言う係官。しか し「・・・・あれ、おっかしいなあ、指紋、合致しないなあ・・・」ちょっとまてこら、と言い出したいのをぐっとこらえる。100%じゃなかったんか い・・・・・そのとき、SEVISからプリントアウトされたデータを見ていた係官が「あ、ここに最新のVisaのデータがあったよ。OKOK」 「・・・・・・・・(ちょ、見落としかい!最初からそれをちゃんと確認しろ!)」
そんなこんなでようやく開放された1時間半後。無事に出発できたからこそ、笑い話にもできるというもの。相変わらずの「アメリカの役所の事務能力のダメっぷり」に口々に文句を言いながら、まあでも開放されてよかったね、と言い合う。私は気づかなかったけれど、あの掘っ立て小屋の中には簡易留置所みたいなものもあったらしい。「トイレ借りようかな、と思って首のばして小屋の中眺めてたの。そしたら”Women”って表示のある部屋っぽいのがあったから、あ、女性用のトイレかな、と思ったら、扉に鉄格子がはまってたよ・・・」とはHeavenの言葉。場所柄、不法移民の疑いで拘留、というのも多いエリアなんだろう。塀の中の住人にならなくて良かった、としみじみ。
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海外に住んだり、そこからさらに様々な国を訪れたりしていると、なんとなく、物理的な制約から少しずつ解放されるような気分になってくる。それは、文化や習慣の違いを感じて改めて「日本」を「日本人であること」を意識するのとは別のところで、「行こうと思えば世界中どこだっていけるさ」、という気持ちが心の奥底に根付くような感覚。隣町に行くような感覚で「次は南米にでも行くかあ」と思えるその意識の変化は、自分の体が軽くなったような気がしてちょっと気持ちよかったりもしたのだけど、実はそうした「身軽さ」は単なる幻想でしかないことを、今回のような事件に遭遇すると、改めて思い知らされる。当たり前のようにBerkeleyに住んでいる自分の立場は実はとても不確かで、紙切れ1枚で保障されたものでしかなく、何かあればあっというまに今の場所を追われてしまっても不思議ではない。旅もしかり。1ヶ月をかけて南米を回って、好きなときに好きな場所に行くことのできる自由さに身を浸しても、それは結局は仮の地でしかなく、訪問先の国に拒否されてしまえば、あっというまに日本に戻らざるを得なくなるのだ。好きなだけあちこち飛び回っているように見えても、結局自分の足元は日本という場所に繋がれている、という事実を嬉しいと感じるのか嫌だと感じるのか、それは自分でもよくわからない。ただ、ああ、自分の足元は宙に浮いているんじゃなくて、ある一つの場所に繋がれているんだなあ、ということを改めて実感させられ、うまく言葉にはできない、奇妙な感覚だけが後にのこった。
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2 comments:
数年日本を離れてみると、随分自由になれるもんですよ。笑
ってか、アメリカ国内移動でパスポートが必要な事くらい、皆さん知っておきましょうよ・・・。。。
>takaogumaさん
いやあ、最初はパスポートどころか、国内線乗るのに身分証明(免許証とか)が必要なことすら知らなかったですよ。まだ免許を取っていなかった頃に、Oaklandの空港で足止めくらいそうになって、学生証と日本の免許証(笑)で必死になって押し切った覚えが。ボストンキャリアフォーラムに向かう飛行機だったんで、必死でしたよ・・・・・
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