たまには(笑)勉強の話など。
今学期とっている授業の一つで面白いのが、Behavioral Finance。日本語では「行動ファイナンス」とか「行動経済学」などと訳されている。2002年、日本が田中さん小柴さんのノーベル賞受賞で盛り上がっていたその裏で、アメリカの経済学者ダニエル・カーネマンがノーベル経済学賞を受賞したのがこのテーマ。
経済学やファイナンス理論の中では、人間は「合理的」に行動する、と考えられてきた。ここでいう「合理的な人間」は、例えば配当率がおよそ50%しかない宝くじを買ったり(回収された金額のうちおよそ半分しか購入者には還元されない、ということです)、株価収益率を計算せずに「この会社の製品が好きだから☆」という理由で株を買ったり、流行を気にして服をかったり、そういうことはしない。常に得られる期待値やwilling to payやmarginal utility(限界効用)を考えて行動する。
・・・・いや、そんな人間どこにもいないじゃん。というのが行動ファイナンスのとっかかり。人は必ずしも経済合理的に行動するわけじゃない。感情や直感やそのときの気分でモノを買ったり売ったり投資したりする。そうした、人のココロの動きに注目して、経済やファイナンスを見直してみましょう、というのがこの行動ファイナンスのテーマ、だ。
じゃあ具体的に、どんな事例があるのか。
例えば、以下のような二つの選択肢が与えられたとき、アナタはどちらを選ぶだろうか?
a)80万円を確実にもらえる
b)100万円もらえるが、10%の確率でもらえない
では次に、以下の二つだったらどうだろう。
a)80万円を絶対に相手にあげなければならない
b)100万円を相手にあげなければならないが、10%の確率であげなくてもよい
「合理的」に考えた場合の正解は、最初がbで次がaだ。最初の問題の場合、(a)を選んだ場合の期待値は80万円なのに対して、(b)は100万円×90%で90万円。なのでbの方がもらえる金額の期待値は高い。次の問題も同様に考えて、(a)の場合の損失期待値は80万円だけど(b)は90万円。なので、より損失を少なくするためには、(a)を選ぶのが合理的。
でもこの質問をすると、大半の人は(a)-(b)という正解と逆の組み合わせを選ぶ。何故か?
(a)-(b)を選んだ人が心の中で考えたのは「お金をもらえるなら期待値は低くても確実に貰いたいし(つまり、リスクを避けたい)、可能性が低くとも”お金を失わなくてもすむ可能性”を追求した(つまり、リスクを積極的に取りたい)」ということじゃないだろうか。「合理的」な人間にとっては利得か損失かでリスクに対する感応度が変わったりはしないけど、実は人間は利得に関してはリスク回避的(なるべく安全側をとりたい)で、損失に関してはリスク追求的(低い可能性にかける)なのだ。
株式投資で重要な一つの要素である「損切り」(保有していた株価が下がった場合に、なるべく損失の少ない段階でさっさと株を売ってしまうこと)のタイミングが難しいといわれるのは、この「損失に対してはリスク追求的」な人の心理が働いているから、といわれている。「もしかしたらもう一度株価が上がるかも・・」という低い可能性にかけてしまうわけですね。
あるいは、こんな実験もある。
「50%の確率で100万円もらえるが、50%の確率で100万円失う」という賭けがあった場合、あなたはその賭けにのりますか?
この賭けの期待値は50%×100万円+50%×(-100万円)=0円。期待値が0だということは、この賭けはアナタにとって損でも得でもないはずだけど、多くの人はこの賭けを「損だ」と感じるんじゃないだろうか。何故か?実は、人間にとって、「100万円をもらえる喜び」と「100万円を失う悲しみ」は、同じではない。金額は同じ100万円でも、失ったときの悲しみは貰ったときの喜びよりもずっと大きいのだ。モノの種類にもよるけれど、「失う悲しみ」は「得る喜び」の2倍~10倍に相当するらしい。1000円拾ったときの喜びよりも、1000円を落としたときのショックの方が、ずっと大きいのだ。
とまあ、そういった「合理的判断では説明がつかない人の行動」を説明しようとするのが、この行動ファイナンスという学問なのだ。そういう意味で、扱う題材は経済学でありファイナンスだけど、かなり心理学的な要素も大きい分野ではある。
それにしても、「失う悲しみは得る喜びの数倍大きい」なんて、経済活動だけに限らず、日常のさまざまな出来事全てに応用できる理論じゃないですか、ねえ?
Let bygones be bygones. Life goes on, and so must we!
2008-02-12
経済は感情で動いている
Posted by torizou at 22:09
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- torizou
- 尼崎に25年。その後横浜→Berkeleyを経て再び東京に。 飛行機(陸上単発)とグライダーの自家用操縦士。投資銀行の中の人。
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10 comments:
それはわかったが、なぜスパゲティが途中に・・・。
いや、文字多すぎるからなんか写真入れようと思って、とりあえず最近取った奴を・・・
私の回答は最初がb-aで2番目が「のる!」の即決。私の判定は「合理的」なようです・・・
が、10年ほど前、大好きなキングヘイローにつぎ込んで5万ほどすった過去が・・・
やっぱり「好き」という感情が入ると人の判断力は鈍るってことですかね?
>ちーちゃん
b-aを選んだアナタはきっと投資に向いていると思うのだよ・・・
僕もDealerだったので、すっごくよくわかります。当時行動ファイナンスの本を読んだんですが、いっつもquite agreeでした。なぜ損切りは遅くなって、利食いが早くなるのか。。。お恥ずかしい限りです。by Akira
>akiraさん
「利食いはゆっくり、損切りは早く」という経験則は、行動ファイナンスが学問として確立される前から言われていたんでしょうね。でも、いくら頭で分かっていても行動できないのが人間というもので・・・・(笑
たぬきです。
なるほどー。非常にわかりやすい。
もらう方はa),あげる方はb)だと確かに思ったなぁ。
50%の賭けも、のらないなぁ。
投資を始めようか迷った時期もあったけど、
本能が「まだやめとけ!」とブレーキをかけたのは
合理的判断ができるようになってからだと
本能が判断したんやろな。いやカッコつけ過ぎか。
「失う悲しみは得る喜びの数倍大きいと思っただけやろ!」と
いろんなところから聞こえる気がする。はいそーでしょう。
グライダーだと、サーマリング技術がなければ飛べる時間の期待値は機体の沈下率によって決まる。ウィンチで5分くらい。サーマルに居続ける方法を理解できれば飛行時間の期待値は変わるよね。
株も銘柄選定と買いのタイミングをちゃんと選べば抜群に勝率が上がる、と思ってるんだけど、どうだろう。
今まで株をやってて、日経新聞に記事が出る>資金が大量に流れ込む>売りタイミング、というのは実感した。
>たぬき氏
マニアックな話題にもかかわらず、意外とみんなに面白がってもらえたようで光栄です。
>きらぞう
なんでグライダーに例えるんですか(笑
投資元本=離脱高度
資産の時価総額=現在高度
手数料+税金=ドラッグ
株価の上下=上昇、下降気流
サブプライム問題=全面沈下
安定上昇期=クライムバンド
感情=熱源
同じ株のホルダー=同じサーマル内の機体
大マジメにかなり近いゲームだと思ってるんですけど。。。
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